電磁場のディラック方程式 (ver 2)
旧ページではワイル表現を使っていたので,行列が煩雑になりましたが,ディラック表現にするともっと簡単に書けることがわかりました。
時空代数とマックスウェル方程式
時空代数とはミンコフスキー空間の 4 方向をクリフォード代数の要素に対応させたもの。くわしくは wikipedia 参照(英語)。 ここで各方向成分$ \gamma_\mu は$ \gamma_{\mu} \gamma_{\nu}+\gamma_{\nu} \gamma_{\mu}=2 \eta_{\mu \nu} ($ \mu, \nu=(t,x,y,z))という代数をみたす。行列で書くとディラック行列で表現されるが,必ずしも行列でなくてもよい。
マックスウェル方程式のクリフォード代数による表現は七誌さんの解説がわかりやすい(七誌さんのサイトには他にもいろいろ解説があるので,芋づる式にたどるとよい)。 以下では,時空代数の要素を行列で表現してみる。具体的には以下のディラック表現を使うとすっきりした形になる。
$ \gamma^{0}=\left( \begin{array}{cc}{I} & {0} \\ {0} & {-I}\end{array}\right), \gamma^{j}=\left( \begin{array}{cc}{0} & {\sigma_{j}} \\ {-\sigma_{j}} & {0}\end{array}\right)
$ ~ ただし$ I は 2 × 2の単位行列,$ \sigma_j はパウリ行列。
ここで,これらの行列が 4 × 4 であることと時空の次元が 4 であることは,意味が違うのに注意。 4 × 4 の行列が時空の次元の数だけあり,それがたまたま行列のサイズと同じ 4 であるということである。
ディラック作用素$ D= \gamma^\mu \partial_\muは以下のようになる。
$ D = \left(\begin{array}{cccc} \partial_{t} & 0 & -\partial_{z} & i\partial_{y}-\partial_{x}\\0 & \partial_{t} & -i\partial_{y}-\partial_{x} & \partial_{z}\\\partial_{z} & \partial_{x}-i\partial_{y} & -\partial_t & 0\\i\partial_{y}+\partial_{x} & -\partial_{z} & 0 & -\partial_{t}\end{array}\right)
ここで,ファラデーテンソルを$ F_{\mu\nu} として,電磁場を$ F = \gamma^\mu \gamma^\nu F_{\mu\nu} と書くと,電磁場も 4 × 4 の行列で表される。具体的には
$ F=\left(\begin{array}{cccc}-iB_{z} & -B_{y}-iB_{x} & E_{z} & E_{x}-iE_{y}\\B_{y}-iB_{x} & iB_{z} & iEy+E_{x} & -E_{z}\\Ez & E_{x}-iE_{y} & -iB_{z} & -B_{y}-iB_{x}\\iE_{y}+E_{x} & -E_{z} & B_{y}-iB_{x} & iB_{z}\end{array}\right)
同様に電流$ J= J_\mu\gamma^\mu は
$ J =\left(\begin{array}{cccc}\rho & 0 & -J_{z} & iJ_{y}-J_{x}\\ 0 & \rho & -iJ_{y}-J_{x} & J_{z}\\ J_{z} & J_{x}-iJ_{y} & -\rho & 0\\ iJ_{y}+J_{x} & -J_{z} & 0 & -\rho\end{array}\right)
これらの行列表示を計算すると$ DF - J=0からマックスウェル方程式が導かれるはずである。
ここまでは$ \gamma^\mu が 4 × 4 行列で書けるのならば,自明のことであろう(中嶋さんのコメントにより追加)。 電磁場のディラック方程式
時空代数での物理量は$ \gamma^\mu とその積を使って表されるので,上でやっているようにこれを行列表現すると,必然的に 4 × 4 の 16 成分を持つことになる。さらに,各成分は複素数なので,実数で勘定すると 32 の自由度を持つ。
しかし,電磁場は電場 3 プラス磁場 3 の 6 成分,電流は 4 成分であり,マックスウェル方程式も 8 本なので,もっと小さな行列でも表すことができるだろう。
実際,上の$ D, F, J の行列表現をながめると,同じようなパターンが少しずつずれて,4回繰り返している。つまり情報としては4重にダブっている(クアドっている?)。
4 × 1 の複素行列は 8 つの自由度をもつので,これで十分書けるはずである。
いま, 4 × 1 の以下の形の行列を考える。
$ u = \left(\begin{array}{c}c_1\cr c_2\cr c_3\cr c_4\end{array}\right)
この 4 成分は直接には幾何学的意味をもたないので,ベクトルという言葉は避けて 4 × 1 行列と呼ぼう。添字も 0, …, 3 ではなく,1, …, 4 にする。変数の場合は$ n や$ m などを使う。
上でみたマックスウェル方程式の時空代数表現$ DF-J=0 は行列で書くと 4 × 4 であった。この関係が成立するのならば,それに,上の 4 × 1 行列$ u をかけた
$ (DF-J)\cdot u=0
$ ~ も成立するはずである。ただし「$ \cdot 」はクリフォード積や内積などの幾何学的な積ではなく 4 × 4 行列と 4 × 1 行列の積である。
つまり,行列$ A の各成分を$ [A]_{mn} と書くと
$ [(DF-J)\cdot L]_m = \sum_{n=1}^4[DF-J]_{mn} [L]_n
この式は 4 × 1 の複素行列であるが,この 8 つの自由度がすべて線形独立であれば,これはマックスウェル方程式と等価になるはずである。
たとえば$ u として,
$ u = \left(\begin{array}{c}1\cr 0\cr 0\cr 0\end{array}\right)
$ \ を選ぶと$ (DF-J)u の実数部は
$ \left(\begin{array}{c}-{\it \partial_{x}}{\it E_{x}}-{\it \partial_{y}}{\it E_{y}}-{\it \partial_{z}}{\it E_{z}}-\rho\\-{\it \partial_{x}}{\it E_{z}}+{\it \partial_{z}}\,E+{\it \partial_{t}B_{y}}\\-{\it \partial_{t}}{\it E_{z}}-{\it {\it \partial_{y}}B_{x}}+{\it {\it \partial_{x}}B_{y}}-J_{z}\\-{\it \partial_{t}}{\it E_{x}}-{\it \partial_{z}}{\it B_{y}}+{\it {\it \partial_{y}}B_{z}}-J_{x}\end{array}\right)=0
$ \ となる。
この一行目はポアソン方程式,二行目はファラデーの方程式の$ y 成分,三・四行目はアンペールの方程式の$ z, x成分である。
同様に虚数部からのこりの四式がでてくる。
結論
以上より,デイラック表現の 4 × 4 行列$ \gamma^\mu に対して
$ \varphi = \left(\begin{array}{c}\varphi_1\cr \varphi_2\cr \varphi_3\cr \varphi_4\end{array}\right)= \left(\begin{array}{c}-iB_z\\B_y-iB_x\\E_z\\iEy+Ex \end{array}\right)
$ j = \left(\begin{array}{c}j_1\cr j_2\cr j_3\cr j_4\end{array}\right)= \left(\begin{array}{c}\rho\\0\\J_z\\iJ_y+J_x \end{array}\right)
という 4 × 1 行列を用意してやれば,マックスウェル方程式は,以下のようにディラック方程式と同様の行列表現で書ける(もちろん,質量項と電流項は形がちがう)。
$ i\gamma^\mu \partial_\mu \varphi - j =0
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